日本一わかりやすい、デザイン思考の説明ビデオを作ってみました。
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まず、用語集からはじめたいと思います。
デザイン思考、アジャイル、リーン、そしてスクラムやスプリント。スタートアップ文化の隆盛に合わせて日本でも最近こういったカタカナ語が良く聞かれるようになってきましたが、似たり寄ったりで混乱しますよね。はじめにこのあたりをクリアにしてから先に進みましょう。
デザイン思考、アジャイル、リーンはそれぞれ独自の起源を持ちますが、すべて一緒くたに考えて大丈夫です。いずれも仮説、実験、検証、繰り返しを経て不確定要素の高い難儀難題を解決していく開発・生産性プロセス、フレームワークですので、全部似たようなものです。
リーンはさらに、リーン生産方式・リーントータルクォリティーマネジメントと、より近代のリーンスタートアップに分かれますが、いずれも仮説、検証、実験、繰り返しのプロセスですので、こちらも大まかに同義と考えてください。
アジャイルも2000年代前後のスタートアップカルチャーブームに合わせてメインストリームになってきた開発アプローチで、スクラムはその中でも最も良く使われている実践フレームワークです。スプリントはスクラムの用語で、二週間とかのスクラムの開発周期のことスプリントと言います。
全部まとめると、デザイン思考とリーンとアジャイルは似たようなもので、スクラムはアジャイルの一部、そしてスプリントはスクラムの要素です。
次に、デザイン思考はなぜ存在するのが、その存在意義を私なりの考えでご説明したいと思います。
私の中では、デザイン思考は「試行錯誤」の最新系、という位置づけです。
イノベーションには当然、試行錯誤が不可欠です。
この試行錯誤は有史以来存在しているものであり、デザイン思考やアジャイルが発明したものでは当然ありません。
東西の「学び」の思想家の代表例として孔子、ソクラテスがそれぞれあげられますが、両者の言語録を読むとすべて、試行錯誤の精神が鮮明です。
比較的近代では、日本では戦後すぐからデミング博士のPDCAサイクルはリーン生産方式の要の考え方として多くの人に影響を与えましたし、1970年代の米空軍を発祥とするOODAループも長きにわたって人気です。これらはすべて、仮説、実験、検証、繰り返しのプロセスで、試行錯誤以外のなにものでもありません。
一方で、試行錯誤そのものは生物学的には実は私達人間の本能に反する行動です。他の生き物同様、人間はサバイバル本能のおかげでリスクを避ける基本的性質を持っています。そして試行錯誤はリスク無しにではありえません。だから、私達は試行錯誤はできるだけやりたくないのが本音です。人間は変化を嫌うようにそもそもできているのです。
もちろん、試行錯誤無しには進歩も進化もないので、結果古くからこの本能に反する行動を説く教えが何千年も連綿と続いているわけです。人類史は突き詰めればのこの試行錯誤と変化への抵抗の歴史です。
デザイン思考やアジャイルは、この何千年も続いている「変化への抵抗の抵抗」の続きなわけです。つまり、最新の「試行錯誤の試行錯誤」であります。志は変わりません。
従いまして、試行錯誤、つまり仮説、実験、検証を繰り返すソリューション開発手法は多く存在します。
これらはすべて、リニア思考型の開発手法であるウォーターフォールに対するアンチテーゼです。
PDCAもOODA、リーンスタートアップ、アジャイルスクラム、そしてデザイン思考、これらがすべて直線ではなく、円形のループ構造の思考プロセスなのは、理由があるわけなんですね。
まずはじめに明確にしたいことは、ウォーターフォール型開発自体は、とても良い開発手法です。緻密で生産的、計画的でクリアなため、大型建造物の建築や、インフラ整備、物流等、何千人とかかわる大きなプロジェクトではウォーターフォールなしでは実現不可能です。小売りや飲食店のフランチャイズもウォーターフォールの実例です。ヘンリーフォードの自動車生産改革以降、ウォーターフォールが現代の世界経済の爆発的繁栄の原動力であったことは間違いありません。
一方で、ウォーターフォールには大きな短所があります。それは柔軟性がないことです。最終完成目標まであらかじめ開発ステージごとに開発計画を緻密に設定して、各ステージ毎に品質管理のチェックポイントを置いて、粛々と実行していく、これがウォーターフォールのやり方ですが、このように最初から何を作る、どう作るを決めてから開発にとりかかるので、途中で目標変更、作戦変更は原則としてナシ、変えちゃいけないというのが思想です。
つまりウォーターフォールでは完成品を見るのは最後まで待たなくではいけなく、これの何が問題かというと、作ってしまってから「あれ、売れないぞ」、プロダクトマーケットフィットがないぞ、と最後になってようやく気付くケースが出てきてしまうわけなんですね。要は、ウォーターフォールでは失敗が極端に高くつくわけです。
一方で、イノベーションは試行錯誤なしにはありえないので、失敗が許される、むしろ「学び」のために意図的に、積極的に失敗も含めて実験を重ねていく開発手法が必要です。ウォーターフォールではこれができないので、アジャイル、デザイン思考、リーンがあるわけです。
仮説検証型開発手法では、プロトタイプ、MVPと呼ばれる実用最小限製品で、アイディアの実現可能性、そして顧客が買ってくれるかという究極の命題をこまめにこまめにテストしていくので、うまくいかなくてもロスは限定的です。失敗が安くつき、学習効果が非常に高いため、イノベーションのためにはデザイン思考やアジャイルは不可欠なわけなんですね。
しかし、アジャイル、デザイン思考は私たちが慣れ親しんでいる、すっきりしていてなにをやるかがクリアなウォーターフォール型開発、リニア思考に反するやり方なので、たいていの方ははじめてやってみるときはとまどいますし、うまくいきません。
端的に言うと、アジャイルもデザイン思考も、複雑で、ぐちゃぐちゃしていて、不明瞭な開発プロセスなので、イライラするし本当に大丈夫なの?と途中で投げ出したくなる性格のものです。実際に多くの方々、チームはあきらめてしまいます。私は組織開発の仕事をしていますので、数多くのそういったケースを見てきました。
でも、大丈夫です。アジャイル、デザイン思考はランダムだったり、カオスな開発プロセスではありません。それぞれ科学的実証性に基づいた規律のある開発プロセスです。ですので、リスクを許容し、じっくりと取り組む忍耐さえあれば、必ず成功します。トライアンドエラーで最後まで頑張りぬいた時にはなんらかの形で必ず成果はでるものですよね。それと一緒です。
スタートアップ以外の既存の企業にデザイン思考やアジャイルを導入するのに、組織構造を変える必要があるかと問われたら、私の答えはイェス&ノーです。
確かに、従来型の縦組織の意思決定プロセスはイノベーションには向いていません。垂直統合型の組織では、組織のトップリーダーが戦略的決定を司り、次の層のミドルリーダーが戦術検討、判断、実践指示の責任を持ち、一般層の社員は伝達された実践計画をどれだけ確実に実行できるかで評価されます。このように、従来型の組織ではいわゆる「サークルオブコントロール」、個人やチームの裁量権が下に行くほど小さくなるため、イノベーションが生まれにくい、育ちにくい環境になってしまっています。
従来型組織のイノベーションに対する限界はなにも日本企業に限った問題ではなく、欧米企業でも同様です。2000年前後の第一次ドットコムブーム以降、先進的な大企業のいくつかはスタートアップ文化の企業内取り込みを実験してきましたが、その試行錯誤の結果どうやら円形の、分散型の新しい組織構造が安定的にイノベーションの成果を出しやすいことが分かってきました。特に強いチームは有志連合的に志を同じくする人たちが様々なスキルを持ち寄って有機的に集まって組成し、スピード感と自律性に優れた10名以下の小規模チームであることが多いようです。また、ほかのチームとはネットワーク的に繋がれ、リーダーやマネージャーも存在するものの従来の管理職とは違う役割、例えばファシリテーターだったりコーチの役割が強調されています。
そうすると、従来型組織はこの新しい形の組織に変わらないといけないのか、というと、必ずしもそうである必要性はないと思います。従来型組織には縦型組織としての利点があり、それを無理やり壊すのは決して賢明なことではありません。
賢いやり方は、既存の組織構造に、イノベーションが必要なホットエリアを設けて、そこに有機的に新しい形の小組織をポツポツとおけばいいのです。英語ではトライブ、直訳すると部落という意味ですが、日本では特務班のようなイメージを持って頂ければよいと思います。要はイノベーションをやりたい、という人たちが社内で集まったらぜひその機会とスペースを作ってあげましょう、ということです。
なにはともあれやたらめっぽうにイノベーションを追求するのも乱暴なやり方です。経営陣としては、イノベーションに投資する以上はしっかりと成果を求めていく規律が必要です。
この点においてもやはり、仮説検証の繰り返しパターンは強力です。ただベンチャー投資をするのと、アジャイルやデザイン思考のようなプロセスをきっちりと持っているベンチャーに投資するのでは大きな違いが生まれます。
例えば、この仮説例では、成功率が20%、ただし当たれば20倍のリターンが戻ってくるハイリスク、ハイリターン的性格のプロジェクトを想定しています。
一回で全投資した場合、加重平均リターンは1,000万円かける20%かける20倍で、4,000万円になります。これはベンチャーキャピタルが投資する案件の典型的リスクリターンプロファイルに近いのであながちありえないシナリオではありません。
これはこれで悪くないのですが、たとえばこのベンチャーチームがデザイン思考集団で、1,000万円を五回に小分けして仮説、実験、検証を繰り返す賢明なチームだった場合を考えます。
例えばの話、この仮説検証の繰り返しの過程で、毎繰り返し時に商品開発のプロダクトマーケットフィットが20%ずつ向上して、最終的には5回目の繰り返しでついに市場が欲しがるドンピシャの商品を開発ができたと仮定します。このように加重平均リターンは3倍の1億2千万円に向上します。さらにここからは競合商品が出るまでや市場が飽きるまでは作れば売れる入れ食い状態になるので、ますます儲かるという状況が達成されます。
もちろんこれはシンプルな仮説の話で、現実には100%のプロダクトマーケットフィットというのはまずありえませんが、少なくとも仮説検証型開発を経て事業成功確率を向上させていく手法のパワーを感じて頂けたと思います。
デザイン思考は、発散と収束を5段階で繰り返します。
まず、ユーザーを知る、共感ステージ、発散ですね。
次に、共感からの学びを収束させて、ユーザの問題を定義します。
再び発散して、ソリューションアイディアを創造します。
今度はそのアイディアをプロトタイプという形に収束させます。試作段階です。
最後にはそのアイディアをプロトタイプを使って、ターゲット顧客等に実験して、その反応を検証すます。
これをプロダクトマーケットフィットが達成されるまで繰り返します。
デザイン思考は、私たち誰しもが持つ想像力、創造力を引き出す、とても規律のあるプロセスです。
ユーザーインタビューと共感マップを使って、ターゲット顧客のことを深く理解してみましょう。大事なのは、観察と推測事項をきっちりとわけることです。
お客様はたいていなになにが欲しい、とは言うものの、本当に欲しいものが何なのか、お客様自身わからない、知らないことが大概です。
お客様の話していること以上に、その方の行動も人類学者にでもなったつもりでボディランゲージや動線などをもしっかり観察しましょう。
さらに会話を通じていろいろな方角が質問をして、お客様の考えていること、感じていることをできるだけピックアップしてみましょう。
ユーザーインタビューと共感マップ作製を通してお客様のことを良くしれたら、次にユーザー観点メモを作ってみましょう。
このユーザー様はこういう人で、こういうニーズがあることがわかりました。なぜならば、面白いことに、実は、という感じでしっかりと観察、推察、洞察、気付いたことをメモにまとめましょう。
共感ステージでまとめたユーザー観点メモをもとに、問題定義文章をつくりましょう。
どうすれば…できるか?という形で問題定義文を作ると便利です。
どうすればこのお客様のユニークなニーズを満たせられるか?できるだけ具体的に、じっくりと、でも長い文章にならず核心にせまるシンプルで良い文章を目指してください。
どうすればこのお客様のユニークなニーズを満たせられるか?そうだ、ではこうしよう!という感じ閃きが生まれるといいですね。
お客様のニーズを実現するためのアイディアはきっとひとつだけではないはずです。
ここは質より量で行きましょう。アイディア創造千本ノック行ってみましょう!
なにも特別な準備はいりません。紙と鉛筆と、静かな環境さえあれば大丈夫です。アイディアをどんどんスケッチして行きましょう。
一番いいアイディアをプロトタイプしますので、プロトタイプはそのアイディアに合わせて自由な方法で試作してください。
たとえばユーザーの動線をたどるサービスモデルの絵コンテは十分良いプロトタイプ試作方法です。
アプリのアイディアでしたら、どこまでプロトタイプを作りこむか慎重に考えましょう。
紙に書いたローファイ版
少し工作の入ったミッドファイ版
そして、アプリモックアップサービスを使って作った電子版のプロトタイプのハイファイ版
目標は実験ですので、実験に最低限必要なクォリティーのものを作って、無駄な労力はかけないようにしましょう。
最後にアドバイスです。
私たちはみんな頑張り屋でこだわり屋なので、どうしてもしっかりと作りこみたがる傾向があります。
人間の模型を作るときに、ひとつひとつのパーツにこだわってしまったらいつまでたっても全体像ができません。
商品コンセプトを理解してもらうには全体像が見えてもらわないと困ります。
リアルで緻密に作られた手だけのパーツを見せるのと、骨格だけだけれど動いてその商品コンセプトがなになのか理解してもらえるのとでは、実験の成果は大きくかわります。
プロトタイプは実験した後捨てる性格のものですので、完成度が高い、見た目も美しいプロトタイプを作る必要はありません。
「動く骨格」で十分です。
デザイン思考のキモ、それは「感知→行動」から「感知→止まって考えて→行動」です。
私達は、せっかちですので、あ、なにかやらなくては、と思ったらもうすぐに行動に移してしまいがちです。
でも、その行動の選択はそれだけですか?ほかの選択肢もありませんか?ベストな選択肢はなんだったんでしょうね?
この立ち止まって、いろいろな選択肢を考える、これがデザイン思考のキモです。
デザイン思考は私たち誰しもが持つ想像力、創造力を引き出すために、プロセスの力を使います。
プロセスですので、しっかり規律があります。
でも大事なのは、固定化されたリニアなプロセスである必要はない、ということです。
共感、問題定義、創造、試作、そして検証というラベルを使っていますが、もっとしっくりくるラベルがあれば置き換えてもらってもかまいません。
例えば、感じる、考える、想像する、作ってみる、試す、でもいいと思います。
さらに、感じるから想像する、想像するから試す、試すから戻ってもう一回創ってみる、というように順番を守る必要はまったくありません。
私達のクリエイティビティはそもそもリニアなものではないので、それでいいのです。
リニア思考の問題はなんでしょう?
予定表やリスト作り、リニア思考は私たちの日常です。だから私達にとってリニア思考はデフォルトの考え方なのです。
リニア思考はシンプルで理路整然、人にも説明しやすく、いつもやっていることなので、深く考えずに普通にみんなやっています。
だいたいのことはリニア思考で済ませられますし、結果も予測がついて安心ですよね。
でも、リニア思考だけでは人生の多くの楽しみを見落としがちです。
リニア思考だけでは、近視眼的になりがちで、いわゆる木を見て森を見ずの状態になってしまいます。
あ、なにか違う、という気づきの喜びも、ちょっと違う風にやってみようかな、という工夫の楽しみもスルーしがちです。
日常にとらわれて、大事なことをきっとたくさん見落としてしまっていることでしょう。
リニア思考には図らずも機会損失が伴います。
そもそもチャンスを捉える以前に、そのチャンスがあること自体を知らずに看過してしまうこと、これがリニア思考の残念なところです。
現実問題として、私たちの多くの過ちは難しい問題に直面した時にデフォルトのリニア思考で解決しようしてしまうことに起因します。ちょっとでも難しい問題をリニア思考で解決しようとしたら、当然すぐ詰まります。
非リニア思考には、並列思考、発散収束型思考、そしてこれは私の個人的な表現ですが、モザイク思考など、いろいろ楽しい考え方があります。
並列思考は、ほかのシナリオや、もし、例えば、といった言葉を使いながら考えられます。
発散収束型思考は、実は論理、哲学で言う演繹法、帰納法と密接に関りがあります。
そして、モザイク思考。イメージとしては、頭を開けてテーブルの上に考えていることを全部ぶちまけます。そして、一歩下がって、どこにパターンがあるか、つながりがあるか、あらためて見てみる、という考え方です。すっきりして、驚きの発見があることもあったりして、とても楽しいですよ!
デザイン思考はこれらノンリニア思考をいろいろな形で取り入れています。デザイン思考を実践して、ぜひリニア思考でない脳をしっかり動かしてみましょう。
最後にデザイン思考とアジャイルのつながりをまたお話しして終わりにしたいと思います。
私はコーチングをさせていただいているアジャイルのスクラムチームに、必要に応じてデザイン思考も取り入れさせています。
スクラムは二週間のスプリントを繰り返して着実に商品、ソリューション開発を進めていく強力な開発フレームワークですが、時々はたと、そういえば何を何故作っているんだっけ、といった立ち止まって原点回帰する暇がないパターンにチームが陥ってしまうことがあります。
そういったときに、良し、止まってデザイン思考をやろう、というのがとても効果的なことを数多くのチームでやってみて実感しています。
一方で、デザイン思考のチームにも、デザイン思考をそのままも繰り返すのも良策ですが、スクラムも覚えてプロトタイプ以降のMVP開発に移るのも良いですよ、と推奨しています。
仮説、検証、実験、繰り返し。デザイン思考でも良し、アジャイルスクラムでも良し、あるいは組み合わせてやるも良し。機会がありましたら是非実践してみてください。
ご清聴ありがとうございました。